◆エンドユーザー向けのサービスとして「マーメイド」という家事代行サービスもはじめられましたね。
ハウスクリーニングに近い家事代行サービスは外国では歴史もあるのですが、日本では、家事にお金を出すということに抵抗感があって、なかなか根付かなかったようです。しかしここに来て、こういったニーズが増えてきました。潜在市場があるので、今から参入しておくことで、「マーメイド」のブランドも作れるのではないかと思っています。
この事業部は全て女性のスタッフで運営しています。この「マーメイド」というネーミングも社員たちが考えたのですよ。まだこの事業はスタートして日が浅いのですが、若い方からのご利用が増えています。
今、ニーズはあるのだけれど、スタッフ不足で困っています。ビル清掃の仕事もこの家事代行の仕事も、みなお客様に感謝される仕事なのですが・・・。責任感のある明るく前向きな方にはとてもやりがいのある仕事になっていくと思っています。
◆役者と経営に共通するものはありますか?
自分が現場に入っていた頃は、まったく無いと思っていました。でも社員さんが増えて人材教育するようになると、人前でしゃべらなくてはいけませんね。伝えなければ伝わらない。そこの部分は非常に演技することと共通しているのです。そういう意味で、役者をやっていて良かったと思いました。役者をやっていた時は、映画なりテレビで自分が演じている姿をいつも見ているわけで、どんな時にどんな顔でどんな声で・・・といつも自分を客観的に見て、どうやって伝えればより相手にきちんと伝わるかを考える習慣がついていました。社長の思いだけが空回りして社員に伝わらずにいることってよくあるのですが・・・。その場の空気を読んだり、相手の立場になって考えてその中で自分の処し方を冷静に考える、そういう訓練を役者の時に学んできましたね。それが今になってとても役に立っています。
◆いままで会社経営をされてこられて「あの時があったから、今がある」瞬間は、ありましたか?
役者をやっていて、それが自分の一生の仕事と思えなくなって、役者以外だったら稼げれば何でもいいと思った仕事だったのですよ。たまたま時代が良くてうまくいって、家も持てて・・・気が付いたらそれが目標だったのですね。その目標が達成できたら、なんだか迷子になったみたいで、ちょうどオヤジがなくなりましてちょっとナーバスになっていて、そんな時が起業して10年目だったのです。
その41歳の時にある経営者だけの研修を受けました。言ってみればそれが「あの時」だったと思います。大坂に8ヶ月間毎月通いました。これが僕にとっては大学のように感じました。
この研修の終わりごろに、同じグループの広島でお弁当屋さんを経営している方に、僕は、「今の仕事がいやだ。社員もろくに動かないし、人からなんかさげすまされているように感じるし、いやでしょうがない」と言ったのです。そうしたら、その方から「社長がそう思っているのなら、そういう社長の下で働いている社員さんはかわいそうじゃないか」と言われたことに「ガン!」と来ました。「そうか、自分だけじゃなくて、そこに働いている社員こそがかわいそうなんだ。自分の考えを改めなければ」と、始めて気づきました。その会社にも見学に行きましたが、お弁当屋さんって過酷な仕事で、朝の2時〜7時が仕事のピーク、社長はそれから夜の11~12時まで仕事をしていました。その社長さんは修行僧みたいな人で、すごい人だなあと思いました。その姿から、僕も自分のことだけを考えていてはいけないと気付かせてもらいました。
◆いまのお仕事への誇りが生まれたのですね。
そうですね。この仕事だからこそ、僕はやってこられた。たぶん他の仕事だったら僕は経営者としては潰れていたと思います。仕入れも少なく、毎月安定した収入が得られ、この仕事が稼がせてくれると、感謝の気持ちに変わりました。それまでは会社は自分のためにあると思っていましたが、180度変わって、会社はそこで働く人のためにあると思うようになりました。社長の役割はそこで会社の方向性をきちんと示すことです。
会社に戻って、すぐに「経営理念」を作りました。それから社内は変わりました。まず半分の社員が辞めました。「理念より金をくれ」って。(笑)人が資源の仕事ですから、回らないかなと心配しましたが、価値観を共有できる社員さんと頑張ったら乗り切れました。何とかなるものですね。
根っこに理念を共有できてということはすごいことで、昔はよくクレームがありましたが、今は逆にお礼の言葉をお客様からいただくようになりました。雲泥の差ですよ。(笑)
自分が変わることで、こんなに会社が変わるものかと、実感しました。
20代・30代は欲に走りますね。その頃そばで人生の指針というか、経営の指針というかそういうものを示してくれる先輩がいてくれたら、もっと早く軌道修正をすることもできたかもしれない・・・と思いますね。だから僕は社員さんにとってそういう役割をすべきかなと思っています。「お金は必要だ。でも怖い存在でもある。お金に翻弄される生き方はしてはいけないよ。使い方を良く考えようね」というようなことはよく話しています。
◆組織作りをどのようにやってこられましたか?
以前役者をやっていた時はある意味では孤独でした。でも会社は違います。組織の力は素晴らしいと思いますよ。僕にそういう経験があるから、社員には「ひとりでは何もできない。チームワークを大事にしよう。自分の足らないところを周りが助けてくれるんだよ」といっています。6・7年前から、会社の情報をオープンにして、社員の絶対評価に加え、相対評価も取り入れ、危機感も共有するが、成果も共有する。そういう社風を作っています。
それぞれの評価の結果からその人の目線が分かります。短所ばかりを見る人には、長所を伸ばそうよと話します。短所の無い人間なんかいません。長所を伸ばせば、短所は魅力に変わるんです。人間の魅力って、たくさんの長所の中にある短所ですよね。それがその人の人間らしさだと思うのです。いつもそんなことを社員たちに話しているのですが、ちゃんと聞いてくれているのかなあ・・・(笑)
|