◆退職後に、株式会社ストロークを立ち上げられたのですか?
私は学生時代から精神の世界に関心があり、精神分析や精神病の本などを読んでいました。NHK在職中にカウンセリングスクールに通い、隔週休日が始まったので、休みや
夜を利用して、心の病を持つ人やそのご家族のための電話相談や家庭訪問もやっていました。今でもNPOストローク会の仕事として続けている「日曜サロン」や「家族の集い」もその頃からスタートしました。様々な機会を通し交流を重ねる中で、精神障がい者が置かれている厳しい実態を知るようになりました。退院したとしても、薬を飲み続けなければならず、話し相手もなく、殻に閉じこもり、生活もルーズになってしまう。そうした状態から抜け出ようと本人や家族が働く場を求めても、仕事を見つけるのはとても困難でした。そんな実情を知るにつれ、定年後は精神障がい者とともに働く場を築く仕事をしようと思いました。退職して1年後株式会社ストロークを設立しました。
精神障がい者の仕事への復帰に対しては、医師も無理だと思っている人が殆どでした。
◆社名の「ストローク」とは?
ストローク(Stroke)には、本来「撫でる」、「さする」などという意味がありますが、スーザンちゃんのエピソードにも象徴されるように、スキンシップや、温かい心や、言葉の伝え合いは、幼いこどもにも、大人にも、そして障がい者にも、健康な人にも生きていくうえで欠くことのできない心の糧です。この暖かいストロークを人々に求めるだけでなく、むしろ積極的に障がいのある人からもこの『ストローク』の発信者となることを願って、この社名をつけました。
スーザンちゃんのエピソードとは、アメリカでのお話です。乳児院に入れられたスーザンちゃんは、2才近くなるというのに歩くことはおろか、這い這いさえ出来ません。知能にも身体にも異常はありません。ある保母さんが、ストローク不足がその原因ではないかと、気づきました。乳児院では、スーザンちゃん係を決めて毎日抱いたり、あやしたり、話しかけたりとたっぷりストロークを与えました。初めは人が近づくのを嫌がったスーザンちゃんも2〜3ヶ月でぐんぐん成長し、独り立ちして歩けるようになったということでした。
◆素晴らしい社名ですね。どのような仕事をされる会社ですか?
心の病を持つ人の社会参加のための訓練や教育をする会社です。今現在、ビル、事務所等の清掃事業の実施及び清掃に関する教育訓練事業。印刷やダイレクトメール等の発送代行業務 。障がい者の社会参加に関する啓発的なイベント、心の健康に関する学習会・イベントなどの企画・立案・実施。障がい者の清掃作業の教育訓練その人材育成のための事業などをしています。
精神的な病気にかかると、いろいろなことに無頓着になり、動くのが面倒になり家でぐずぐずしていることで自分に自信がなくなってしまっているので、病気が回復しても社会復帰するためには、訓練や研修をうけることが大切です。
◆清掃に関する事業についてもう少し詳しくお話しください。
清掃現場としては、雑居ビル、事務所ビル、公共施設、マンション、幼稚園、診療所などいろいろあります。研修を受講する場合は、研修を通して清掃の技術を教えることと、生活を朝型に切り替ええ習慣を変えることの指導もしています。一般的に精神障がい者は仕事についても長続きがしないと思われていますが、当社では、現在在籍している障がい者は20名おり、内10年以上在籍している人が8名もいます。仕事をすることで、自信を取り戻し生きる力を取り戻していってくれることは、私の大きな喜びでもあります。障がいを抱えていても、たとえ短時間であっても社会の中で、責任を持って仕事をしていくことが、職場のルールを守ることで社会性を身につけていくことになります。だんだん体力的にも精神的にもたくましくなるとともにプロ意識が芽生え、仕事を通じて対人能力を高めていくこともできます。当社在職中に清掃技術を身につけ、ビルクリーニング技能士の国家資格を取得した障がい者だけでも5名おり、そのうち現在も2名が在籍しています。
◆NPO法人ストロークはどのような活動をされていますか?
株式会社ストローク設立と同時に、平成元年より、任意団体としてストローク会を立ち上げました。ストローク会は、精神障がい者の自立と一般就労を目指して活動しています。国や地方公共団体の福祉政策の兆しがみられはじめ、これに対応する体制をつくり、これまでの活動を通して蓄積したノウハウを積極的に活用した事業を進めるために、平成13年に特定非営利活動法人ストローク会を設立しました。
株式会社ストロークでは、障がいのある人が一緒に働いていますが、NPO法人のストローク会では広く、障がいのある人特に精神障がい者のある人の自立を応援し、働くことへの啓発・支援をおもな仕事にしています。
毎年、「あなたとTALKING」というイベントを開催しており、今年度は20回になります。今回は、沖縄のふれあいセンターの当事者たちの素晴らしい活動をDVDを見ながら紹介すると共に、彼らに上京してもらって皆で話し合うことを計画しています。
ストローク会では、社会参加のための基本的な挨拶、身だしなみ、勤務時間、後始末等働く人としての基本的研修をしています。多くの精神障がい者は、人への配慮や協調性、身だしなみ、エチケット等職場で必要な資質を身につけることはとても時間がかかることなのです。
また、障がい者は病気や通院していることを隠して働くことは大変な負担であり、治療を中断すれば、病の再発につながりかねません。病を気にせず、「安心して働ける場」を提供することが、社会復帰のステップとなります。カウンセラーによる個別の指導で、通院しながら働き続けることができるような活動もしています。
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