◆京都では何を学びましたか?
紹介を受けたお豆腐屋さんにドキドキしながら行きました。その時僕はまだ名刺というものを持っていなかったのです。それで、メモ紙に住所と名前を書いたものを手渡して・・・先方はびっくりしていました。(笑)その社長は、「物語を作るんだよ、物語のない豆腐なんか売れないよ」と言われました。僕は「物語ねえ・・・なんだろう」といって帰ってきました。これも後になって、あーそういうことなのだと理解することが出来ました。
その後もいろいろな人を紹介していただきました。
ある方から、「畑に入ったことある?」って聞かれました。無かったのですよ。入れば分かるって言われて、畑に行きました。双葉から育って、枝豆になって枯れる・・・大豆が一年で生長して豆になるまでを見届けると、よくぞ大豆になってくれたという思いが起こりますね。そんな経験から、豆腐作りに対する心が変わりました。今日その大豆を使うのだ、という気が引き締まる思いがあります。
そのような中で、全国的な集まりにも参加し始めました。先日その集まりで山形に行きました。その土地でしか収穫できない品種の赤豆を是非守って作り続けてほしいと農家の人に伝えったのですが、その土地の人にはわからないのですよ。昔からそこにあって作っているただそれだけなのです。なぜその土地でしか収穫できないのか、そこには大きな意味があるということなのですが・・・。
◆ご自身の豆腐作りで大切にしていることは?そしてご苦労は?
豆腐作りは皆さん水だと思っていらっしゃるようですが、いちばん大切なのは大豆です。その次ににがり、三番目に水です。りせんの豆腐はその大豆にこだわっています。素性のわかる豆腐作りを目指しています。人と人とのつながりの中で結ばれる信頼関係、そしてその安心感が大切だと思います。
大豆は国産にこだわり、新潟・北海道・埼玉のその地域でしかない大豆を無農薬でと契約農家さんにお願いして作ってもらっています。条件は、いい値・全量買取・現金払い、けっこうきついです。(苦笑)全国各地の大豆を使ってみたのですが、今はこの3箇所です。一箇所にしないのは、不作の場合を考えたからです。台風が来たりした時には、それはもうひやひやものですよ。北のほうの大豆は晩生なので、雪をかぶらないかでいてくれるか心配だったりと自然に敏感になって一喜一憂しています。不作の時でも、いい値といっても国産大豆の3倍までには押さえてほしいのですが・・・。
一度だけ、国産大豆が高騰してどうしてもつかいきれず、アメリカ産の大豆を30キロ買ったことがありました。その豆で妻と二人で豆腐を作ったのですが、おいしくないのです。作っている最中、何か別のものを作っているみたいに感じてしまって、「もうやめよう」とその30キロは処分してしまいました。その時、自分の納得した豆腐作りは何かに気がついたのかもしれませんね。
豆腐作りに大切なにがりも、いろいろ探して、五島列島のにがりにしました。
◆今、日本の農業の危機といわれています。それに対してどう思われますか?
大豆に関していいますと、危機ではなく、危機を超えています。5%・・・何の数字だかわかりますか?なんと日本の大豆の自給率です。95%は輸入ものです。日本の大切な食文化である味噌・しょうゆ・納豆・豆腐は国産のものでは5%しか作ることが出来ないのです。無農薬・有機になると、0.03%・・・っていわれています。これを危機っていって済まされると思いますか!
畑はいっぱい空いているんです。でも、農家は作っても売るところが無いのです。魚沼産というブランドでも、魚沼には休田があるのですよ。私の提案ですが、みんな「マイ農家」を持てばいいのですよ。一軒の農家で50人くらいのお客さんがいれば充分成り立つようです。自分の食べる野菜やお米を作ってくれる人の顔がみられるから、安心して食べることが出来るし、食に感謝の気持ちももっと湧いてくると思います。