◆もう少し通訳・翻訳のお仕事についてお話ください。
仕事の依頼の9割は英語です。この仕事は、英語力だけではなく日本語力も問われます。英語でコミュニケーションを取れる人はたくさんいらっしゃいますが、通訳の仕事はそれだけではダメなのです。通訳は、相手の言っていることを聞きながらメモを取って、瞬時に別の言語に置き換えるわけです。相手は次にどんな言葉を言うかわかりません。相手の立場を理解し、別の言語に置き換えるというのは、とても技術のいる仕事です。
例えば通訳者の場合、TOEIC 950以上で3年間トレーニングを積んでやっとスタートラインです。国際会議などの同時通訳の場合、3人の通訳者が1人15分間ずつ受け持ちます。人間の集中できるリミットが15分、緊張の連続ですね。そういう人たちは、毎日が勉強とトレーニング、そんな厳しい仕事なのです。
通訳の9割が女性です。言葉で表現するというは女性のほうが得意なのかもしれません。通訳者に無口な人はいませんので、女性のほうが多いのかも(笑)。
もう一つは、食べていけるようになるまでには時間がかかる仕事なので、それだけ英語ができると、男性の場合は英語を使ったビジネスに移行していく方が多いのです。翻訳者はどちらかというと男性が多いですね。
当社は、通訳・翻訳者のためのコミュティーサイト、「ハイキャリア」を運営しています。私のブログもこちらで発信しています。情報は発信するところに集まるという考えから、このような情報サイトを始めました。このサイトを立ち上げたことで、通訳・翻訳者の登録希望者が毎月40名ほど集まるようになりました。
●通訳・翻訳者の未来を開く
「ハイキャリア」
◆テンナイン・コミュニケーションさんの強みは?
通訳・翻訳者は大変プロ意識が強く、キャリア志向も高いです。ですから、コーディネーターにもプロ意識を求められます。現場の成功の鍵は、90%コーディネーターが握っているのです。お客様のニーズを聞き出して、それに最適な通訳を出さなければなりません。
また、もしコーディネーターがミスをしても、それが自分に戻ってこないつらさがあります。ミスすると、お客様や通訳者に迷惑をかけて、自分自身はそのミスをカバーできないのです。
私たちの仕事はそういったストレスフルな仕事でもあります。ですからこの業界はなかなか定着率が悪いのです。以前いた会社もそうでした。しかし、私は当社の財産はコーディネーターの中に残ると考えます。コーディネーターの流出は、ノウハウの流出でもあるわけです。そこで、当社では社内のストレスマネジメントに力をいれています。そのおかげか、当社は社員の定着率がとてもよいですよ。
◆社名にこめた意味はどのようなことでしょうか?
テンナインというのは、99.99999999%ということで、限りなく100%に近いコミュニケーションを提供することを目指しております。なぜ100%ではないのかといいますと、言葉は絶えず進化しています。流行語もどんどん変わっていきますね。ですから、通訳も翻訳もこれで100%ということはないのです。逆にそう思ってしまったら、そこで成長が止ってしまいます。
成長をし続けるという気持ちを込めて、テンナイン・コミュニケーションという社名にしました。
◆会社を立ち上げた時のことをお伺いします。
この業界はニッチ産業ですが、グローイングニッチ産業です。とても成長率が高い業界です。通訳会社が約80社、翻訳会社が1000社ほどあります。他に個人でされている方もいらっしゃいます。新しく業界に参入する時に、競合がたくさんあるところは避けますが、私は逆でした。
競合が多いということは、そこに市場があるということです。市場があるということは、そこに「顧客不満足」があるということです。通訳・翻訳業界の不満足は何かというと、「対応が遅い」ということなのです。また、営業もあまりしない業界です。ですから、私はこのふたつをやったのです。クイックレスポンスを、仕事の質を落さずに実行することをやったことが、好スタートを切れた要因だったと思います。
会社を設立した当初は、毎日飛び込み営業をしていました。A4の手作りの会社案内を作って、今日は大手町と決めると一日中大手町の外資系の会社にかたっぱしから飛び込み営業をかけました。会社の電話を携帯に転送にしていましたので、2年間地下には入りませんでしたし、バックにいれると電話がなっても気づかないことがあるので、いつも手に持っていました。(笑)
通訳・翻訳者の登録も、10年以上コーディネーターをしていたおかげで、人から人へと増えていきました。
会社を起こして一番苦労したことは、経営ということを知らなかったことです。そこで、経営や異業種の勉強会にはたくさん行き、今も行き続けています。その中で仕事を紹介していただいたり、アドバイスを戴いたりしてきました。私はパッションはあるが、ロジカルシンキングが弱いのです。勉強会にも行きましたが、付け焼刃ではダメだと気づいて、テキストを買って一人勉強会をやることにしまいした。経営って、自分のいいところも弱いところもすぐに結果が出るでしょう。だから面白い。自分の弱いところも突きつけられています。
私は人を育だてたり、引っ張っていくことは苦手ではなかったのですが、論理性がないと最終的には人を説得できません。説得できなければリーダーにはなれないということで、いい加減身につけなければ・・と思っているのですよ。(笑)