◆2006年に株式会社カムイスペースワークスを設立されました経過をお話しください。
うちの会社の若社員達は、「本を読め」「勉強をしろ」と言っても、なかなかやりません。
どうやったら勉強してくれるのか、自分で考えて行動できるようになるのか、ずっと悩んでいました。
「経営者と従業員は考える事が全然違うから、従業員に経営者的な意識を持たせるのは不可能だよ。」とアドバイスしてくれた人もいましたが、僕の性格は雇われていようが経営者だろうが、立場に関係なくどんなことでも工夫をせずにはいられないのです。
僕は変なのかな、と思った時期もあります。(笑)しかし、その「変」の理由を考えてみたら、どうやら僕は、小さい頃から飛行機やロケットの開発者の苦労話の本を読み続けてきたから、こんな性質になってしまったのだと気がつきました。
では、社員達に、飛行機やロケットを好きにさせればいいのか、と思いましたが、世の中そんなに簡単ではありません。せいぜい紙飛行機を作らせるのが関の山でした。(笑)
その頃の年末に、児童養護施設にボランティアで、子どもと一緒に餅つきをすることになりました。事前の注意事項の中に、そこの子どもとは「スキンシップをしてはならない」とありました。その施設の子どもは児童虐待の犠牲者で、大人に触られるとパニックになってしまうそうなのです。新聞やテレビでは知っていましたが、現実にそういう子ども達を目の当たりにして、ショックを受けました。餅つきを始めて、初めは怯える目で僕らを見ていた子ども達も、だんだん興味を示し、最後にはおんぶに抱っこに肩ぐるままでせがむようになりました。なぜこの子達は、大人に触られたらパニックになるほどに怯えていたのに、今はこんなに大人とのスキンシップを求めているのだろう・・・。そう思ったら、涙が止りませんでした。いとおしくて、いとおしくて、そう思っても、僕はそこに居続けることもできない、子どもを連れ帰ることもできません。何もできないのです。そんな自分の無力さが悔しくてしょうがありませんでした。
僕は何ができるのだろうかと、真剣に悩みました。社員のこと、社会のことで悩んでいるときに、北海道大学の先生と出会いました。その先生は、爆発しないロケットエンジンを開発していました。「これだ!」と思いましたね。自分達で開発できるロケットエンジン!これしかありません。絶対に手放すものか!とすがりつき、一緒にやらせてもらえるようにお願いしました。ロケット開発をはじめてから、社員たちも、どんどん勉強するようになりました。お金では買えない喜びがあることを知ってくれました。想像以上の効果がありました。この効果を、学校や地域に波及させたいという思いが、このカムイスペースワークス設立のきっかけになっています。
北海道に生まれた民間宇宙開発企業カムイスペースワークス、「CSW」の情報をブログで発信しています。
●カムイスペースワークスブログ
◆一企業が参入するには、宇宙開発はあまりにも壮大なスケールの事業ですね。どのような思いでチャレンジしているのでしょうか?
宇宙開発や航空機の開発は国策で税金を使ってやるようになったのなんて、冷戦時代からですよ。それまでは、単なる物好きのおじさんの趣味の延長でしかありませんでした。ですから、スケールが大きいとか、お金がかかるとか、高度な技術が必要とか、思い込まされている段階で負けです。
僕らのロケットの主要構造材は、複合材です。と書くと、「すごーい!」と思うかもしれませんが、そんなもの、ホームセンターの自動車補修コーナーに売っていますから。(笑)僕らのロケットは、その気になれば、ホームセンターで売っている材料で作れます。
なぜ飛んでいないのか?それは、できっこないと思い込まされているからです。自分が知らないこと、わからないことを、「すごいですねえ、自分には関係ないけど・・・」と無視してしまう人ばかりだからなのです。知らなければ知ればいいだけで、やったことがなければやってみればいいだけです。僕はこの宇宙開発を手段だと思っています。社会を良くするための手段です。間違っても、宇宙開発は目的ではありません。
僕の目指す良い社会を作るために必要不可欠な手段ですから、がんばってやっています。CAMUIロケットのエンジン部の開発をしていますが、現在開発中のものは、推力400Kgf、目標高度65kmを目指しています。現段階では、燃料形状を変化させながら、最適な形を導き出すために、推力70kgf級の実験モデルを製作し、数度にわけて噴射試験を行っている状態です。高度65kmと言えば、気象観測ロケットが到達する高度に相当します。低コストで飛ばせるCAMUIロケットの実用範囲は各段に広がりますよ。会社の敷地内に無重力実験施設を作って、騒音が出るロケットエンジンの噴射実験をやっています。中小企業の工場というのは、生産設備であると同時に、研究開発施設でもあるわけです。問題が発生すれば、すぐにその場で修正していく技術が必要不可欠なんです。これこそが中小企業の得意分野です。社員のモチベーションも上がって、他の製品開発などにもさまざまなアイデアが生み出されるようになりました。
◆北海道は植松さんにとってどんなところでしょうか?
可能性に満ちあふれたすばらしい土地です。何もないことが良い。ゼロスタートをする覚悟のある人にとっては、最適な地でしょう。