◆「ひだるか」という映画をどういうことから製作されたのでしょうか?
前にも述べたように私が体験した1960年の
「三井三池争議」
は、今なお関係した人々にとって鮮烈な記憶としてその胸に刻まれています。でも、もう、あれから半世紀近く。次代を担う若い世代は、その存在さえ知らなくなっています。
今回分かったことですが、大牟田でさえ、私より少し下の世代は、ほとんど、この大争議のことを知りません。戦後50年にあたってNHKが「日本の戦後10大ニュース」に取り上げた事柄ですがね・・・
三池炭鉱の街に生を受け、私の最も多感な少年時代に目の当たりにした「親たちの世界」の厳しい現実を何らかのかたちで映画にしたいというのが、私の変わらぬ思いでした。
「使命感」「ミッション」とでもいいましょうか。
で、今回の「ひだるか」の原型ともいうべきシナリオ『洋子・32歳・夏』を書き上げてから撮影に入れるようになるには25年の歳月を要しました。その間、何度か映画化のチャンスあったのですが、内容が「商業的」ではないこともあって具体化しなかったんです。
それが、今回、「ひだるか」として実を結んだのは、高校の同窓生を初めとする多くの方々の支援があったからです。署名運動からのスタートでした。「幸せ者」だと心底思います。と、同時に、今という時代が、背中を押してくれたとも感じました。
「リストラ」ということが当たり前のように語られる現代の風潮に対する奥深い怒りが、人々の底流にあると思えてなりません。
映画「ひだるか」の舞台は、放送のデシタル化にともなうリストラに揺れる福岡のテレビ局。「三井三池争議」は、「石炭から石油へ」という国策の転換のなかで起こった壮大な「反リストラ闘争」でもあったんですね。ある意味、デシタル化という国策の中で翻弄される映画の主人公・陽子の苦悩は、かつて、三池の地で苦悩した私の父たちの苦悩と通じるものがあるのではないか・・・というのが、今回の映画「ひだるか」の出発点でした。
このテレビ局の花形キャスター・陽子の自立の物語に込められた私の故郷・三池への深い想いが、多くの人々、とりわけ若い世代の人々に届いて欲しいという願いは切なるものがあります。
映画は、今までにおよそ2万人の人々に見ていただき、さまざまなご意見を頂きましたが、期待通り、若い世代には、大きなインパクトを与えたようです。でも、まだまだです。この映画の続編『ひだるか2〜踊るハゲタカ〜』の製作・上映などを通じて、再度の上映運動・DVD普及などを通じて、「ひだるか」という言葉が、来年2008年の流行語大賞に選ばれるようになるよう頑張り抜きたいと思っています(笑)
◆「ひだるか2☆踊るハゲタカ」は「ひだるか」の続編ですか?
「ひだるか」前編の舞台となった福岡中央テレビに外資の影が忍び寄るという前作を受けて次のように、ストーリーが展開します。
・・・2年間の東京研修を終えた坂上千夏(35歳)を迎えた福岡中央テレビは、大きな危機に揺れていた。地上波デジタル化の過剰な設備投資負担に加えて、営業不振による営業危機に、ドイツの外資が参入。労働組合もそれをめぐって二つに分かれていた。制作・報道デスクのホープとして局内の期待を集める千夏は7歳になる娘の母。今は福岡中央テレビの取締役で、 元労組書記長の園田克巳(47歳)とは離婚していた。千夏の属する組合の書記長・深町誠治(29歳)は、千夏の復帰を歓迎し、ドイツ・グッテン社による買収に対抗しようとする。
ところが、福岡中央テレビの買収に名乗りをあげたのは国内のイーグル・キャピタル通称竹村ファンドであった。国会での20%の外資規制枠撤廃が実現しなかったからである。竹村ファンドの真意は?テレビ局内に合理化の嵐が吹き荒れ、なんと組合委員長が希望退職に応じてしまう。書記長の深町は、千夏に委員長就任を要請。逡巡した千夏であったが、その要請をうける。その背景には、グッテン、竹村連合軍のあまりにもえげつない買収計画があった。大幅なリストラを断行した上で福岡中央テレビを東南アジア向けの衛星放送専門局に改編し、グッテン社の実施的な支配下に置く。その過程で、竹村ファンドに莫大な成功報酬が支払われるという密約も暴露された。
だが、組合側にも有効な反撃策があるわけではない。思い悩む千夏と深町。企業買収を研究し始めた深町は、ある「奇策」を練り上げる。MBO(Management Buyout 経営陣による企業買収)の手法によって職場の雇用を守ろうというのである。
では、その相手は?何と、千夏の元夫の園田。激しく動揺する千夏。園田も逡巡するが、福岡中央テレビを地方発ドラマの発信局にしたいという野心が、禁じ手とも思われる労組との連携を決意させる。千夏も、それに応えて、MBOに向けての準備に入る。福岡の市民たちにもグッテン・竹村連合軍の意図を暴露。千夏自身も広告塔となって世論に訴える。千夏は、いつしか「博多のジャンヌダルグ」と言われようになり運動は大いに盛り上がり、会社側を追い詰めていく。
こうした状況に会社側は反撃の狼煙を上げる。株主総会で定款を変更、衛星専門局への改編を堂々と謳おうというのである。そうなると肝心の「地域に根ざした放送局を」というMBO計画の錦の御旗を失い、計画自体が水泡に帰してしまう。千夏たちの闘いの焦点は、株主総会での定款変更阻止に絞られてくる・・・果たして、千夏たちに勝算は?という具合で、この千夏役には、あっと驚く大物女優さんと交渉中。プロデューサーは、「お葬式」「桜の園」「マルサの女」などで有名な岡田裕氏。来年、3月撮影開始で、秋に公開予定です。
◆会社は経営者の理念とそこに働く人々の誇りで成り立っているものと思っています。主人公の千夏さんには絶対に勝っていただきたいです。
あの労働歌「がんばろう」を作曲した荒木実のドキュメントを撮影中とお聞きしましたが?
長編ドキュメンタリー映画で、いわば「ひだるか」の姉妹編です。
「ひだるか」が、陽子というヒロインを通して、「三井三池争議」の意味を問い直したのに対して、この映画では、三井三池争議の「芸術的象徴」との言える荒木栄を通して、その意味を再確認していく面があります。
映画の企画意図を、ご紹介しておきます。
・・・今から46年前の1960年、三井三池争議の中で、彗星のように現われ数々の歌を残した労働者・作曲家
荒木栄。(争議終結2年後の68年秋。栄は、38歳の若さで夭折。しかし、彼の残した『がんばろう』の歌は、今も、様々な闘いの中で歌われている。 春闘などの集会だけじゃなく、若い世代のソウル・フラワー・モノノケサミットなども新な意匠で歌い継いでいる。
また、70年代のプロテストソングの歌い手たち、高石ともや岡林信康にとっても、先行世代としての荒木栄の存在は小さくないという・・・
この映画は、荒木栄の生き方を探る若きシンガー・妃月洋子により沿いながら、今だに歌い継がれる「がんばろう」に籠められた我が国の闘う労働者 の想いを浮き彫りにしていきます。それは、同時に60年代末から70年代にかけて一世を風靡したプロテストソングと時代とのかかわりを立体的に捉えていくことにもなり、ひいては、「ワーキング・プア」といわれる年収250万円以下の世帯が650万の「現代」という「美しくない」時代を撃ち、明日を切り開く 遠雷ともなるにちがいありません。
この映画は、今年中に完成させ、来年4月から全国で上映する予定です。