◆制作部に移られたのはどうしてですか?制作部のお仕事とは?
専門の制作がいなくて、俳優達が手分けしてやっていました。でも私は、頭が切り替わらなくて、このままじゃどちらも中途半端になってしまうと思いました。そんな中で、演劇の世界があまりにも状況が悪すぎて。貧乏なのが当たり前というのはおかしいと思ったんです。それなら私は「日本の演劇状況を変えるようになりたい!それには、日本一の女優になって発言権を持つか、はたまた日本一の女性制作者になるかだ!!」 と無謀にも思いました。(笑)日本一の女優になるのは難しいかもしれない・・・でも、日本一の女性制作者にならなれるんじゃないか!と大きな志を立てました。その頃は、まだ女性の制作者は少なかったもので、若気の至りですね、はい。(苦笑)
制作の仕事というのは、俳優や演出・劇作家・舞台技術以外のことは全てやる仕事です。お客様と舞台、俳優達とスタッフの間をつなぐ役割です。具体的には、企画・営業・総務・経営・宣伝と多岐にわたります。公演中は、宿・移動・食事の手配も一番気を使う仕事です。一番大事なことは、作品を愛すること、そしてその作品を育てることです。でも一人では絶対できないことですし、表には出ない裏方の仕事でもあります。だから、この作品・・・舞台を直接創造する人とどう関わるかがとても大切だと思います。それと、体力・忍耐力、これが勝負かな・・・でも私にはあるとは思えないですが、この仕事を通して、身につけなさいってことなのだろうなあと思っています。
◆劇団銅鑼さんの演劇の特徴は?
劇団の理念は“人々のくらしに演劇が溶け込み心豊かな人生の糧となること―それが私たちの願いです”。
創作劇を中心に地域から全国、海外でも公演活動をしています。代表作に、岩手県・沢内村の“生命行政”と村人たちを描いた「燃える雪」、日本のシンドラーといわれる杉原千畝氏の実話を描いた「センポ・スギハァラ」など、新聞ではどちらかというと文化芸能面より社会面で取り上げられることが多いようです。他に、内田康夫さんの人気推理小説“浅見光彦シリーズ”などもあります。
◆演劇の力とは?
心が食べる栄養です。演劇を通して疑似体験をすることによって新しい自分を発見し、その感動が人を変える。そして、コミュニケーションのツールとしても、やっと日本でも注目されるようになりました。演劇ワークショップは、欧米では教育や社員研修・スポーツ選手のトレーニングでも利用されています。
◆文化庁在外研修員としてニューヨークでアートマネージメントを学ばれたときの体験についてお話ください。また、そこでどんな気づきがありましたか?
80日という短い期間でしたが、研修させていただいた2つの劇場で、ひたすら稽古を見学して、人を見てきました。言葉の問題で、見ているしかなかったんですが、負け惜しみではなく、ただただ見ているのがとても勉強になりました。私の興味は、商業ベースのオン・ブロードウエイじゃなくて、利益を追求しない非営利の劇場・オフやオフオフ・ブロードウエイ。銅鑼を含めて日本の劇団のほとんどがこれにあたります。
ニューヨークの演劇人は、ほとんどみんなそれだけでは食べていけません。まあ、俳優=ウエイター・ウエイトレス、っていうのも現実ですが、でも、自分を磨くためにすごい努力をしています。そこから、いつか! という気概がすごく伝わりました。そして演劇人はたとえ食べていけなくても尊敬されてるってこと、それは素晴らしいことです。
一番の思い出は、ニューヨーク市立図書館が主催している移民のための無料英会話教室での体験です。私はもちろん初級で、いろんな国からやってきた人たちとの片言の交流が一番楽しかったですね。英語のレベルが同じだから委縮せずに会話できました。みんな夢を抱いてアメリカに必死になって渡ってきた人たちです。中途半端な気持ちじゃありません。それに比べて、私は・・・「生半可な気持ちでここにいるなあ」と気づかせてもらいました。私は国費で研修に来ている恵まれた状況の上に、まさか1回目の研修試験で受かると思わなかったので、本当に具体的にやりたいことがまだ分かっていなかったんです。でも彼らの中で過ごしたことで、自分の道は自分で切り開くんだ、ってことを学び、帰国してから本当に勉強したいことがわかりました。だから、今こそもう1回行きたい!