◆ そのような状況下でのどのようにされてこられましたか?
当社の4つのスローガンがあります。
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基本を大切にすること。 |
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ホットなものづくり、お客様やクリエイターと心を通わせて、いいものを作り上げるには熱い心が必要です。 |
3. |
時代を先取りすること。これはもっとも大切なことです。 |
4. |
本物の品質です。価格の低下とは相反するスピード化や高品質化も求められてきます。 |
私どもは「製版業界のブティック」として、高級化に特化して仕事をしていこうと思いました。
また当社は、執行役員制度を採用しています。執行役員制度は大手企業で取り入れられていますが、実際は中小企業にとって非常に良い制度ではないでしょうか。中小企業の取締役は社長の延長上にいるような存在で、経営責任は取れないと思います。当社の執行役員制度は、商法上の取締役は私を初めとしたオーナー家の人間がなり、経営責任も私たちが取りましょうということで、執行役員には執行に関する責任を幹部社員に持ってもらうという制度です。この制度により、私がこまごまとしたことをやらなくても、執行役員のもと各社員が積極的に動くようになり、とても効果があったのではないかと思います。
もう一つに、社員株主制度と株主総会の開催があります。株主総会では、決算書、貸借対照表、損益計算書など全てを公開します。社員は営業外損益や営業利益などを理解していますので、昇給が悪かったり、ボーナスが少なければ、来期はもっと業績を上げて・・・と考えるようになりました。このように社員が経営に対して参加意識を持てる制度を作ったことは大きな特長だと思います。また、全社員出席のもとでの経営計画書の発表もやっています。これか全社会議と称して、株主総会の後で行っています。これによって、経営理念・経営方針・会社の将来について非常によく理解されるようになりました。
◆会社は誰のためにあるとお考えですか?
社員にとって一番長い時間を過ごす場です。ですから生きがい・やりがいを感じながら楽しく仕事ができる場としての良い環境を作ることが私の役目だと思っています。社員には、自分のステージを作る場、自己実現の場として、まずは自分のために働いてくださいといっています。自分の生活も大切にしてほしいですね。経営理念の中の「理にかなった仕事・理にかなった生活」なのです。
当社の福利厚生制度の一つに保険があります。これは過去に私が非常に後悔したことがありました。だいぶ前になりますが私を指導してくれた工場の職人が、定年間近にくも膜下出血で他界しました。当時会社もあまり利益を上げておらず、社員に対する保障制度も無く、給料の数か月分くらいしか差し上げることができなかったという苦い経験をしました。そのときの思いから、安心して会社で働いてもらうためにもと、全社員を生命保険に加入させ、もしもの時の保障をしてあげるようにしています。
また、社員旅行も創業以来、続けています。今の若い人の中には社員旅行はいやだという人もいるようですが、当社の場合はほぼ全員が参加します。この社員旅行は自分や家族だけではなかなか行けないような観光地をと企画していますので、社員にとっても頑張る目標の一つになっているかもしれませんね。
社員の研修にも力を入れていますが、もっと自分からこういうことを学びたいという積極的な提案があると嬉しいのですが、これは今後の課題ですね。
◆第一製版さんは、アメリカンフットボール社会人リーグ 「オービックシーガルズ」のオフィシャルスポンサーをされていらっしゃいますね。
オービックシーガルズは、1983年に発足して、今年で24年目を迎えました。日本選手権を3回、社会人選手権を4回制覇し、Xリーグ (社会人のトップリーグ) では1996年のリーグ発足以降、11年間で10回、決勝トーナメントに進出しています。
当社がこのオービックシーガルズを応援する意義は、まずは第一製版の知名度を高めることです。選手のユニフォームの右肩に「第一製版」のロゴが入っています。また、アメフトの持つ良好なイメージによるブランディング、お客様へのサービス、社員の帰属意識と一体感の醸成、リクルーティング、販売促進などにつながっていくことを目指しています。このオービックシーガルズで活躍中の ケビン・ジャクソン君は、第一製版の社員でもあります。彼には、外資系クライアントに対する営業アシスタントを担当してもらっています。わたしも試合の応援に行くのがとても楽しみです。
◆先代からのメッセージがおありだそうですね。
はい今年95歳になる先代創業者の武井から、9月の経営計画の発表会の時に社員へ送ったメッセージがあります。
「我が第一製版は、ただ金を儲けるために始まった会社ではありません。戦後の混乱期に社会の進歩のため様々な活動をしていきました。今それを知る人は社にはいません。しかし民主的な正しい社会をつくることに協力する心構えは、社のどこかに流れているはずです。今当社は、事業として最大の危機に面しています。どうかみなさん、心をひとつにして頑張ってください」
当社は、1985年から押し寄せるデジタルの波の中で、右肩上がりの業績を作ってきました。先代は、これこそが危機だというのです。鋭い指摘です。私はこの言葉を毎日思い出しながら、気を引き締めています。
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