◆起業後のご苦労は?
最初のころ、新しいお客様を開拓しようと全く関係の無いところの仕事をしてみました。
最初に「2ヵ月後に持ち帰りで仕事を出して単価も上げてあげる」という約束ではじめた常駐の仕事が、常駐期間が延びたことに加えて4ヵ月後には、受注金額を下げるといわれて社員に支払う給料よりも少ない金額の仕事になってしまいました。契約をきちんと取り交わして頂けないままに期間を延長されていたので、働いたお金をきちんとお支払い頂けるのか、それすらとても不安になりました。技術だけ勝っていても、営業力や交渉力がなければ世の中で生きていくことは難しいということがつくづく身に染みたのはこの時でした。
◆御社の事業についてお話ください。
規模は小さい会社ですが11億を越える売り上げのほぼ半分が、エンドユーザ(直接システムを使うお客様)から頂いた仕事です。残りの約半分も、要件定義や基本設計と呼ばれる形のない要求をITのシステムで実現するところからの仕事で7割以上がこういった設計からシステムを構築していくまでのシステムインテグレーションの仕事をしております。
ITに関わる仕事は、とても広範囲で、ソフトの開発は大手4社が発注総額の7割を占める寡占状態です。我々は、データベースとインターネットの技術を基盤としてeビジネスや様々な業務システムの開発に携わってきました。特に人材紹介の分野では、公開企業である紹介会社さんの基幹業務をいくつも担当させて頂いており、この分野の業務ノウハウについては多少の自信があります。
また、大手ベンターさんとパートナーシップを取って難しい技術調査や方式検討を行う仕事もしており、アメリカのOracle本社から表彰されたプロジェクトなどにも技術支援メンバーとして参画しております。最近では、安定した開発量がコンスタントにあるメディア媒体のWEB化に関わる開発を日経新聞社の子会社である日経デジタルメディア様から頂いております。
日経新聞のサイトの中核である日経マネーサイトのリニューアルは、昨年度当社の最も大きなプロジェクトでした。また、よりビジネス戦略に近い分野を担当させて頂く意味から、各種のビジネス系のコンサルティング会社やマーケティング会社と連携した戦略システムの開発にも力を入れております。
◆会社を経営するに当たっていちばん大切にしていることは?
「技術は人を助ける」これは私の思いであり、当社の信念でもあります。
「技術」とは一体何なのかといいますと、人・もの・金・情報は経営資源、この経営資源に労働を加えて付加価値を生み出すのが「技術」です。お客様の満足と社員の幸せを両立すること。そのためには、お客様に付加価値を与える技術を磨き、システムづくりにおもいやりを持って取り組む豊かな人間性の社員を育てていくことが大切だと思います。
彼らのひとりひとりが幸せであること、成長していこうと努力し続けることが大切です。その結果お客様に有意義なサービスを提供し続けることができると考えています。
以前、新入社員の説明会でよく話したことで「ハンマーを振るうのは右手。左手はいつも陰になって犠牲になる。でも、左手があるからやれる」という本田宗一郎氏の言葉があります。
釘を打つ時に釘を押さえる左手をイメージしてください。この押さえがしっかりしていなければ真直ぐにしっかりと釘を打つことはできません。これは当社の価値観の一つでもあります。このヒューマンシステムの価値観に共感できる人を集めて組織化してこそ本当の組織=ヒューマンシステムができると考えています。一番大切にしているのは、そういう価値観を共有できる社員達と我々を助けてくださる沢山のまわりの方々、そういう人と人との結びつきが無くては、経営はできないと思っています。
◆プログラム&プロジェクトマネジメント(P2M)を学ばれていらっしゃいますが、どういうものでしょうか?また学ぶきっかけは?
プログラム&プロジェクトマネジメント(P2M)は、従来の範囲とコストと納期を定めてものをつくる工程を管理するというプロジェクトマネージメントの概念を超えて、事業改革プロジェクトやもっと規模の大きなプロジェクトも管理できるように考えた統合的なプロジェクトマネージメントの体系です。
このP2Mは、日本発のプロジェクトマネージメントで随所に日本のものづくりにおける様々な工夫が織り込まれています。まず、学ぶきっかけからお話します。
創業当初は、会計士の先生の指導のもと10億の会社を目標にして来ました。そうして、12年目でその目標を達成し、その翌年も10億が達成できてはいたのですが、私にとっては、それでも経営というものがなにか身近には感じられませんでした。
年々社員の給料は上げていかなければならないし、以前のネットバブルの頃のように急成長を期待できる何かが自分の中には見つけられませんでした。
技術力は、確かに上がってきているように思えましたが、プロジェクトが失敗するとすぐに経営に影響する請負形態での受注が多い会社でしたので、どうしたら利益が確保できるのか、どうして最近自分がきついと感じているのかよくわからない漠然とした不安がありました。
そんな時、1コマだけ講師を頼まれた日本工業大学の大学院の先生から、「ビジネス・アンド・システムインテグレーション」という授業があると教えていただき、システムの前にビジネスを創造するという過程から勉強してみようと思いました。
当時は、プロジェクトの失敗は上流工程の仕様が確定していないことが大きな理由のように思えたからです。その授業を受けるために必要とされたのがP2Mというプロジェクトマネージメントだったのです。