◆バブルがはじけた時はいかがでしたか?
バブルがはじけた後の方が仕事は増えました。建設業は細かく分業化されていたのですが、それを当社でまとめて請け負う体制を作りました。現場の管理監督もメーカーの要請もあり請け負うことになりました。人手不足になり、私は現場を離れ会社の管理にまわり、社員の募集を始めました。その頃からやっと会社らしくなっていきました。(笑)当社の戦略の一つが、現場監督者の養成により、監督代行システムの構築です。大企業の社員の人件費と、中小企業の社員の人件費には差があります。大企業が一人現場監督として張り付かせるよりは、外注に出す方が安くつくわけです。当社も仕事になり、双方にとって良かったわけです。その時に採用した社員は現在現場監督として立派に育っています。
バブルがはじけて株価は下落しましたが、建設業は以前に契約した仕事があるので、数年は持ちこたえられます。しかし3〜4年経って影響が出始め、元請けメーカーの仕事が極端に減少しました。それまではS社の仕事だけをこなせばよかったのですが、新規開拓をしなければならなくなり、これを機に、本社を台東区に移転しました。
新規開拓にはつらい経験も多々ありました。仲間内の業者から、人手が足りないので大手重機械系の会社の仕事を手伝ってほしいと頼まれました。ところがその業者が工事の途中で倒産してしまい2000万円が不渡りになりました。それまで赤字を出したことのない会社でしたので、あわてました。それもなんとか銀行の借り入れでしのぐことができました。工事の途中で倒産したもので、元請けメーカーも困ったと思います。工事の続行が必要なわけで、これはチャンスと直接取引の交渉をし、全て当社のお客様になっていただくことができました。この仕事で400万円は回収できました。あとの1600万円は高い営業マンを2年雇ったのだと考えることにしました。(笑)
◆御社の事業についてお伺いします。
主に立体駐車場の据付工事や、機械器具の設置工事など、重くて大きくて動くものの工事をしています。技術力の進歩とともに社会環境は変化し、 駐車設備のあり方もそれと併走する形でさまざまな対応を求められています。地上タワー型から土地有効利用の地下埋設型まで立体駐車場には、エレベータ式・平面往復式・垂直回転式・水平多層循環式・垂直循環式などがあり、限られた空間での高い収容力、且つスピーディに安定安全な入出庫が要求されます。入出庫にはスピードが要求され、無人の駐車場の内部は猛スピードで駐車パレットが移動しています。さらに超高層化に伴い耐震性、低騒音性も求められています。今後は、機械式駐車場据付で蓄積した技術を、一般機械設備、給排水の衛生設備などさまざまな分野での新規機器設備工事に活かしていきたいと思っています。
おもしろかった仕事と言えば、東京、荒川遊園地のジェットコースターの更新工事があります。これは東京都の施設として3才幼児からお年寄りまで、腰を抜かさないですむユニークな 芋虫の形をした「日本で最も遅いジェットコースター」 として運行されています。(笑)このジェットコースターは、イタリアの中小企業の製品で、ヨーロッパでは、何もない公園に突然遊園地が出現するという移動遊園地が多くあり、このジェットコースターはそういった移動遊園地のための遊具を固定型にしたものです。また後楽園遊園地のタワーハッカーの工事もやりました。これは高さ90M直径2Mの塔に40人乗りの回転展望台がついていました。老朽化したために展望台を取り外し、日本初のタワー型垂直落下マシンを取り付けました。このタワーハッカーはスイスのインタミン社製です。コンサートホール内の緞帳や照明、吊り天井設備の工事、せり上げ装置など舞台装置の据付も変わった仕事といえますね。
◆かなり危険と隣り合わせなお仕事ですね。
たしかに事故と背中合わせの業界です。六本木ヒルズの立体駐車場の工事の時に大赤字を出しました。その工事は真夏で、まるでサウナの中のような過酷な状況での仕事でした。1時間仕事をして1時間休憩と能率が著しく低下したのです。外注をあわせて20〜30人がかかわっていました。そんな中で事故(休業災害)が起こりました。メーカーさんにも大変迷惑をかけ、その後の追加工事を請求できなくなりました。結局5000万円の仕事が7000万円かかってしまい、いまだにそれが尾を引いています。それまでは、1件200〜300万円という仕事を積み重ねてきましたので、大きな仕事には大きなリスクがあるということにも気づかされました。
最近の高層マンションなどでは、中庭に100台収容の立体駐車場を4棟造ったりしますので、地上100Mのところでの仕事ということもよくあります。ですから、安全に関しての教育にはとりわけ力を入れています。人命にかかわる大事故は、会社の命取りになることもあります。そのためにも、2004年に品質マネジメントシステムISO9001-2000を取得しました。このISO9001-2000は、顧客満足を第一に掲げ、継続的に社員教育を行い、継続的に改善をしていかなければなりません。社員の責任、義務、品質、安全に対する意識の向上が、事故防止につながります。このシステム化により、今までやってきたことを整理することができました。社員と外注さんを集めて毎月1回安全教育の会議をやっています。当社のような規模の会社でこれだけのことをやっているのは他にはあまり無いと自負しております。 また、当社の職人のような機械据付技術者は高い時術力が必要とされます。高いところに重たいものを小さな力であげていくのですから経験もさることながら知識と知恵の要る仕事です。この仕事はやり始めるとかなり面白い仕事だと思います。ベテランの職人から若い職人へ技術の伝承をしていくことがこれからの課題の一つです。
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