◆人生の転機になったというのはどういうことですか?
ホストファミリーは、初めて見る日本人だといって、わたしをとても歓迎してくれました。自由業のお父さんは、私をいろいろなところに連れて行ってくれて、さまざまな世界の人に会わせてくれました。人脈作りの天才でした。そのお父さんのバイタリティさは素晴らしく、人にこんなに尽くせるものなのかと感動もしました。ホストファミリーの子供たちに折り紙を折ってあげたらとても喜んでくれました。それじゃあ小学校で鶴を折る授業をやってみたらどうかということになり、女の子のクラスで、1日3回の授業を持たせてもらいました。子どもたちは、はじめてみる日本人から、一枚の紙から鶴を折っていくことに熱狂していました。私は伝わる喜びに身体が熱くなりました。とても素晴らしい体験でした。また帰国する2日前のクリスマスに、アイルランド全土に放送するラジオの特番があり、お父さんの計らいで、そこに出演することになりました。一緒に行った留学仲間2人と、「きよしこの夜」を日本語で歌いました。これもとてもいい経験でした。
帰国を翌日に控えて、ベッドの下からトランクを取り出し、荷造りを始めた時のことです。私は、日本では、子供の頃はいろいろなものを集め、大学では剣道部の先輩から代々引き継いだものに溢れた下宿で生活していました。しかし、私はこの3ヶ月トランク一つで暮らしたことに気づきました。人間が充実して暮らすことと、モノの多さとは関係が無いのだということを教えてもらった貴重な留学体験でした。
◆どうして起業することになったのですか?
(株)フジタに勤務して5〜6年たった頃から、このままでいいかと疑問を感じ始めました。臨床心理士のような人と係わる仕事がしたいという思いが強くなり、コーチングなどの教育研修を受け始めました。その教育研修の中で、地域に貢献するというプログラムに参加し、」何かプロジェクトを作ることが課題となりました。テーマは何でもいいということでした。そこで、「かたづけられない人がかたづけられるようになるプロジェクト」というものを考えました。友人の中から5人にお願いして、4ヶ月間のプログラムを作りました。その中に親友のお母さんがいました。その人の家は散らかっているというよりは、モノに溢れた家でした。まずはキッチンから取り掛かり、3ヶ月かけて、リビング、自分の部屋と家族も手伝ってどんどんかたづけていきました。全てかたづいた時に、部屋の壁にプレスリーのカレンダーが現れました。そのお母さんは、プレスリーの大フアンで、部屋がスッキリしたことがきっかけで、メンフィスのプレスリーの墓参りに行くことに決めたそうです。かたづけると本当にやりたいことの為に一歩踏み出せるのだなあとその時に気づきました。この仕事は、単にモノをかたづけることではなく、人生コーチをすることなんだと思いました。この仕事によって、みんなが本当にやりたいことを見つけることができたら、これはとんでもなく面白いことになるなあとひらめきました。プロジェクトの発表をするイベントを開催する為に、5人の事例とプロの講義をと考えましたが、当時インターネットで探しても、収納のプロはいても、かたづけの専門家は見当たらず、それなら自分で全部やってしまおうということになりましたが、その反響は大変大きなものでした。そこで調子にのって、本業の傍ら、2年間ボランティア的に、それぞれにあったプランを作って、かたづけサポートの仕事をしてきました。
2005年4月、会社の組織替えがあり、勤務していた首都圏土木支店が統廃合されることになったことをきっかけに、会社を辞めて「かたづけ士」として独立する決意をしました。
◆「かたづけ士」とはユニークですね?
当時は今のようなセミナーのできる能力やノウハウも持っていませんでした。根拠の無い自信と可能性だけでした。(笑)2月に結婚したばかりの妻に相談したら、「あなたがやりたいことだからいいんじゃない」と言ってくれました。両親も理解をしてくれました。ありがたいと今でも感謝しています。
◆私はかたづけが苦手です。どうしたら整理整頓ができるのでしょうか?
寝ている時間を除く1日の9割が、なんと「探す」時間に使っているのです。これってびっくりしますよね。その「探す」に費やしている時は、その人にはパワーが無いのです。もったいないことです。かたづけることで、スッキリして、本当にやりたいことが見えてくる。そのお手伝いをすることが私の仕事だと考えています。
かたづけは、ABCDです。
A: あたりまえのことを
B: ばかにせず
C: ちゃんとやる(それが、)
D: できる人
整理整頓を一つに考えていると、なかなかかたづけがはかどりません。
整理とは、いるものといらないものを分別して要らないものを減らすこと。
整頓とは、使いやすいように配置すること。
まずは、整理して、そのあとで整頓です。「整理力は、現代の読み書きそろばん」だと脳科学者の茂木健一郎さんもある著書の中で言っています。
◆起業されてからのご苦労は?
それまでボランティアで関わったお客さんからの紹介や、教育プログラムの会社の仲間の応援でスタートしました。掃除の勉強もしようと、3ヶ月間、ホテルの掃除のアルバイトをして、短時間で見せる掃除のやり方も学びました。この仕事は体力の要る仕事でした。
その後、2005年8月半ばにお客さんとシェアオフィスヘイズ銀座で打合せをしました。ヘイズ銀座は、インキュベーションビジネスサロンの機能を持っていますので、私は翌月から会員登録をさせてもらいました。これが私のターニングポイントだったと思います。スッキリ・ラボと名づけてくれたのは、ヘイズ銀座チェアマンの平田さんです。名前については、妻とかなり時間をかけて「かたづけ・プランニング・ラボ」にしようと考えていました。平田さんに一連の流れを説明しましたところ、「本当は何をしたいのか?」と聞かれました。私は、「自分もお客さんもスッキリしたい」と答えたら、平田さんは、「かたづけプランニングラボではぜんぜんスッキリしていない。『スッキリ・ラボ かたづけ士』としてはどうか」とアドバイスをいただき、「スッキリ・ラボ かたづけ士 小松易」と名乗ることにしました。このヘイズ銀座では、講習会や交流会などを通して、異業種の企業家同士が切磋琢磨していました。その中で、マンガプロダクションを立ち上げた青木さんに私の「かたづけ士への道」をマンガにしてもらい起業1年で「そうじかたづけ練習帳」の出版もできました。ヘイズ銀座が無ければ、今の私は無いですね。スッキリ・ラボの原点といえます。
個人事業でやるか、会社にするかで悩んだこともありました。結局私の仕事はまずは自分自身にしっかりとしたノウハウを身につけて「スッキリラボ・かたづけ士」をブランド化することが先決であるという結論に達し、現在に至っています。
|