◆ 産学官連携事業として電気自動車を開発されたそうですが。
昨年から今年にかけて、電気自動車の開発に関しては、二つのプロジェクトをやっております。2003年から墨田区と早稲田大学が産学官連携事業をやっていこうということで、当社も参加させていただき、5年間学生さんや先生方との交流を続けてきた中で、昨年早稲田大学理工学部から、電気自動車をつくるというプロジェクトが生まれました。もう一つは、金型、メッキ、印刷など多業種の区内企業でつくった「すみだ産学官連携クラブ」でぜひ電気自動車をつくろうじゃあないかということでできたプロジェクトがあります。基本的には、墨田区と、そして早稲田大学との産学官連携プロジェクトがきっかけとなりました。
現在世界的に大手の会社が電気自動車の開発をしていますが、そこと同じ土俵に乗って勝負しようというスタンスではありません。
当社は部品加工のメーカーで、試作品一個から量産品、注文して納品まで3日という特急品でも引き受けるのがセールスポイントでやっています。しかし製品をつくってお客様にお渡しすると、それがどこにどのように使われているかが実際はよくわかりません。この部品はこういうところに使われるからこういう仕様にしようとか、こういうような仕上げにしようということが、図面からだけではなかなかできません。そこで、姿かたちが見え、自分たち試乗することも出来る電気自動車のプロジェクトに参加することにしました。
今回は設計から携わることもでき、設計の段階から、ものづくりの原点である使う立場になることができたという貴重な体験をすることができました。それによって、図面では表現されていない部分にある気づきなど、完成まで一貫した仕事からではければわからない部分を、従業員も理解してくれたと思います。そのためのきっかけ作りとしての取り組みです。
◆墨田区は産学官連携事業にとても積極的ですね。その電気自動車は路上を走っているのですか?
現在、開発した電気自動車は渋谷や代々木、越谷で走っています。スピードは時速30`くらいで速くはありませんが、この速度には墨田区の戦略があります。2011年に東武伊勢崎線業平橋駅前に世界一の新東京タワー(東京スカイツリー)が完成します。大手広告代理店の予測では、年間500〜530万人の観光客が見込まれています。墨田区として懸念していることは、その観光客が台東区の浅草にながれてしまうのではないかということです。たしかに、浅草には多くの観光スポットがあります。一方墨田区にも、文豪の旧居跡や両国国技館、吉良邸跡など名所旧跡などがありますが、点在しています。そこで墨田区は、この電気自動車を、歩行困難な方や高齢者のための移動手段としてのプロジェクトとして考えています。
墨田区での電気自動車の取り組みも、「メイド イン 墨田」ということで、区内に新しい産業が生まれます。たった一台の電気自動車ですが、これをきっかけとして、創造性のあるものづくりがおきてくるのではないかと、それによって技術力も高まり、新しい産業の創出にもなるのではないか、そうなってくれたらうれしいなあと思っています。
◆電気自動車の開発の今後の展開についてどのようにお考えですか?
基本的には、商売ベースでやったら、大手には絶対にかないません。一号機を作りましたが、墨田区で「動かしてハイおしまい」ということではなく、日本全国の自治体にもお分けしていきたいと思っています。それは単に車を売るということではなく、モビリティのシステムと車をセットにして提供することが最終目標です。我々が電気自動車を作るまでにかかわってきた人の「汗」「絆」「夢」と、動かすためのサービスも含めてパッケージで提供することができたら、これこそが売りになり、強みとなるのではないかとも考えています。
◆一橋大学との交流ももたれてこられたのですね。
一橋大学の関満博先生は、30年ほど前から「日本の製造業が危ない。後継者育成をしなければならない」と全国各地で2代目を集めたセミナーなども開いています。ITなどで起業するには創業資金が2〜300万円くらいあればできるが、製造業となると設備費などが高額で1〜1.5億円は軽くかかります。技術だけでは起業できないのが製造業です。だから2代目ががんばらなければ、日本はものづくりのできない国になってしまうという危機感を持っています。関先生とのお付き合いにより、学生たちも工場に出入りするようになり、新しい風が吹き込みました。職人はともすれば自分の世界で固まってしまう傾向がありますが、こういった風により、仕事への意欲も高まりました。
当社の産学連携の第一ステップは2003年からの5年間の人的交流でした。2003年当初は、大学と浜野製作所とのレベルに大きな差がありました。5年間先生や学生たちとの交流くり返すことにより勉強を重ね、経営体質の改善をすることで、ようやく大学側に提案ができるようになり、その結果が去年の電気自動車の開発に繋がりました。今は第2ステップと考えています。最終的にはもっとレベルを上げ、自社の中で開発品ができるようになり、特許を持った技術を持てるようになることを目標としています。
◆小学生の工場見学を実施されていらっしゃるようですが。
去年から小学校からの依頼で始めました。小学校3年生が見学に来ます。見学後の感想文が学校から送られてきますが、イラストなども入ったとてもかわいい感想文です。当社の宝物です。工場見学に業界は行政などからもきますが、一番内容が濃く盛り上がるのは小学生の見学です。いつも無口で黙々と仕事をしていたスタッフが、イキイキと先生のごとく丁寧ににこにこしながら大きな声で子ども達に説明している姿をあちこちで見受けます。こんな一面を持っていたのかと、なんともほほえましく思いますし、こういう経験が、社員全体のモチベーションにもなっています。
先日の見学の感想文に「私は浜野製作所に見学に行って、こういう会社で働きたいと思いました。私が18歳になるまで、潰れないでいてください」というのがありました。これはなんとしても潰さないで頑張らなければいかんと思いました。(笑)
◆会社にかける思いとは?
会社は私だけものではなく、ここに働くみんなのものです。今のうちの会社の現状が良くていてくれているのではなく、会社の夢とか希望とかに思いを寄せてくれて残ってくれているのが今のスタッフたちです。将来への夢や希望がなくなった時点で、うちの会社はダメになってしまうと思っています。スタッフの夢や期待を裏切れないと、社長として大きな責任を感じています。
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