◆戦略的派遣とは?
高度な先端技術を持たない地域の人間を、技術を持った会社に送り込み、技術を身につけ地域に戻り、起業させることを考えています。
現在、大東町の20代の若者3名を岡山の会社に派遣しています。彼らは高学歴ではなく、それまでパワーはあってもそのパワーを良い方向に持っていく人がいませんでした。どこに履歴書を持っていっても良い返事は少なかったようです。私は彼らに「こういうことやるか?」と聞くと、「自分達でいいのか?」と聞いてきました。私は「学齢は関係ない。今からやる気があればそれでいい。私は君たちから搾取はしないよ。帰ったらその技術で自分たちの会社を大東町でつくりなさい。そこで君たちが多くの社員を雇えばいいんだよ」と答えました。彼らは高学歴でないことがコンプレックスでした。それを乗り越えるには、実績を出すことしかありません。現在彼らは、岡山県知事表彰を受けるくらい頑張っています。彼らは私が生まれ育った大東町の出身です。その若者たちが大東町で起業し、その彼らを地元の大人たちがバックアップしてくれることを願っています。それを私の祖父母や両親が喜んでくれれば、長男である私を婿養子に出してくれたことに対して、少しは恩返しになるのではと思っています。
女性の元気と若者の元気が、地域が元気になる源です。
◆電子部品の会社が、どうして押し花のお菓子をつくられたのですか?
地元で雇用をつくることが、私が会社をつくった目的です。去年秋からのアメリカの金融危機の影響で大手企業の業績悪化で、電子部品の受注に大打撃を受け、5億円あった売上が一気に半分に落ち込みました。どんなに厳しい状況になっても、雇用だけは絶対に守らなければと、生き残りをかけて、新規事業に進出しました。それが「お菓子」です。2008年広島の食品メーカーからお菓子の会社を譲り受け、電子部品の細かい手作業の技術を生かし、地元の農産物を使った新しいお菓子作りの開発を始めました。工場の敷地内のビニールハウスで、無農薬で栽培したバラ・ビオラ・コスモスなどの花と、地元の農産物を使った、着色料などを一切使わない押し花のお菓子です。「世界にひとつだけの花」という名前で、2009年より「彩色健美 美楽」というブランドで、販売を開始しました。
奥出雲にはたくさんの良い食材があります。これを使った食品分野に乗り出そうという気持ちが以前からありました。特に農業分野を含めて食品に携わることができたら、同じ会社の中で、若い時だけではく、歳をとってからも一緒に仕事ができるだろうと思って、このお菓子に行き当たりました。押し花の製造は独自の製法を生かしてすべて手作りです。電子の細かい作業は年齢が高くなると難しくなりますが、お菓子作りの仕事であれば長く続けられます。それも難しくなった時には、押し花の栽培についてもらう計画で、定年も70歳に引き上げました。
◆ 「彩色健美 美楽」「世界にひとつだけの花」つくり手の心が伝わる素敵なネーミングですね。今後の販売の展開をどのようにお考えですか?
私たちがつくっているお菓子は、他の販売とは違った流通をと考え、販売方法は、インターネットの通販サイトでの販売、「お花屋さんで買えるお菓子」という販路の開拓をしています。 長澤社長の ウェルネス社のサイトで、今年の母の日にお花とお菓子のセットで、弊社のお菓子を使っていただきましたが、限定200のところ、なんと数千件の注文をいただきました。今後は全国の生花店さんで販売していただけるようにと販路を広げていきたいと思っています。
今年の春に、産経新聞が大きく写真入りで取り上げてくれたことをきっかけに、その記事を見たテレビ局が、不況の中、異業種に参入し、他所にないお菓子を、それも電子のピンセットの技術を使っているということで、すべての局から依頼がありました。悪い中でも良い方向に我々は向いていると思いました。これをどうやって伸ばすかは、社長の私の肩にかかっていると思っています。
取材のおかげで、社員たちは自分たちが注目されていると、モチベーションがとても上がりました。また、ウェルネスさんから購入いただいたお客様から、温かいメッセージや注文をいただきました。お菓子という最終商品をつくることで、お客様の声を直接きけたことが、社員たちにとても大きな力ともなっています。
主力の電子が落ち込んで経営としては苦しい状況にありますが、1年後、2年後に社員たちと「あの不景気って、うちの会社には良かったよね。あれ(不景気)があったから、変われるきっかけになった」といえるような雰囲気がでてきたかなと感じています。
◆御社の強みとは?
私の財産は、一緒に頑張ってくれる社員です。社員たちが本気になれば、電子だろうか、お菓子だろうが何だってできます。「やる気、勇気、元気」だけは一級品です。
私の採用面接は変わっています。ほとんど面接する人の履歴書を見ません。履歴書はその人の過去です。大切なのは、今から頑張れるかどうかです。面接では私がやりたいことを話し続けます。そして「最後にあなたは一緒にやりますか?」と聞きます。そこで「よろしくお願いします」と、「にこっ」と笑顔が出るかどうかが大切です。人気持ちの底から笑うかどうか、作り笑いかどうかは、顔を見ればわかります。心からの笑顔の人は、入ってからどんな苦労があっても頑張ってくれる人です。私にとって社員は、一緒に頑張る仲間なのです。当社の強みは、「人財」である仲間たちでそのものです。
◆大好きな言葉は?
「上善水の如し」です。
水は高いところから低いところへ、丸い器に入れれば丸く見え、池の中の水は穏やかであり、台風の荒れ狂う海の水は猛々しい。我々のように歴史も無く、自分たちの技術だけで一生懸命頑張ってくれる社員しかいない会社にとって、その時その時代背景に合わせてたえず変化していくことにしか生き残る道は無い。そういう意味で、この「上善水の如し」という言葉が好きです。
今年の当社の行動指針に「変確!の年」としています。「確かに変わる」年です。食品分野にも進出しました。世の中に無いものを創り出すことが製造業の得意とするところです。「あったらいいね」というものを創り出すことに力を入れて頑張りたいと思っています。この地域に雇用が増えるチャンスがあれば、どんな業種にもチャレンジしたいと思います。
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